モーニングコール

"恋愛小説"  著作者:理名子      オンライン小説SNSへ


[あらすじ]
 東亜大学3年生の中川悟(さとる)は、同じゼミに所属する平井結花(ゆか)にヒョンなことから毎朝(月〜金)モーニングコールをしてもらう。
この日も、結花からいつものようにモーニングコールをもらうが・・・。
モーニングコール
 午前10時32分、バッハの「G線上のアリア」のメロディーが、中川悟(さとる)の携帯電話から心地よく流れ出した。
表面のランプが光り、白いシーツを青く染めていた。
1DKの部屋の西側に置かれたパイプベッドから、若草色のタオルケットにくるまった悟が、枕元にポツンと置かれた携帯電話に手を伸ばし、片手でそれを開くと、眠そうな声で電話に出た。

 「...、はい。」
 「もしもし悟くん?まだ寝てた?」
 「いやっ、今起きたところ。」

 電話の向こうから、ハキハキとした女の子の声が聞こえてくる。
平井結花(ゆか)、20歳、東亜大学文学部英文科の3年生。
悟と同じゼミに所属し、「シェイクスピア」を研究している。
悟にとっては、ガールフレンドの一人。
初めてのゼミの飲み会で、ゼミ生みんなの連絡先を交換した時に、結花とは、ゴールデンタイムに放送されているドラマの話で盛り上がった。

 
 寝起きの悪い彼女が(専門学校生)、まじめな大学生の彼氏に毎朝モーニングコールをお願いする。
互いに忙しくて会えない平日は、彼のモーニングコールで長電話をする。昨日の出来事や、学校のこと、職場での不満など両者の話題が、朝の時間の流れとともに繰り広げられる。
 週に1回だけの、日曜日のデート。彼女の親友で恋敵の女の子。彼氏の学生生活。
主人公二人を軸に、彼らを取り巻くユニークな人々のエピソードが入り混じったラブコメディー。
 単純に言ってしまえば、そんな感じの20代前半の若者たちの等身大の恋愛模様を描いた感じのドラマだ。(ちなみに、ドラマのタイトルも、「等身大の明日」)


 グラス半分の量のカルーアミルクしか口にしていないのに、結花の頬は赤く染まり、いつもよりも上機嫌だった。
悟は、それほど酒に強いわけではないが、友人たちのペースに巻き込まれ、いつもより多く酒を飲んでいた。
つまり、二人ともほろ酔い気分だったわけで、そんな感じだから初対面なのに平気で話せてしまったというわけだ。

 「でもさぁ〜、寝起きが悪いのが女の子なんて酷くない??大体、女子を馬鹿にしてるのよ〜!」
 「まあまあ、あくまでもドラマの中の話だし・・・。平井さんは、朝は強いんだ?」
 「うん、ぜんぜん平気。でなきゃ、週に3日も1限に授業なんて入れないよ。」
箸の先で器用にパスタを巻きながら、結花が答えた。料理が得意といっていたけど、彼女の手付きを見ていると納得がいく。

 「朝が平気なんて、羨ましいよ。俺なんて、朝起きれなくて遅刻ばっかだよ。」
 「だったらさぁ、あたしが悟君に毎朝モーニングコールしてあげよっか?ドラマみたいに。」
 「・・・っえ!?だってさぁ・・・。」
返事を躊躇っていると、結花が口を開いた。
 「言っとくけど、あれはドラマの中の話でしょ。私達は、別に恋人同士でもなんでもないんだから、そんなにびっくりしないでよ!」
2分前に悟が言っていた台詞を結花は繰り返すと、悪戯っぽく笑って見せた。
 
 そんなことがきっかけで、翌日から毎朝、結花からモーニングコールがかかってきた。
最初の頃は、悟が起きたのを確認するとすぐに電話を切っていた結花だったが、2ヶ月ほど経った今では違和感なく会話が続くようになった。
 
 それで、今日もいつものように1限後に電話があったわけだ。
悟は、タオルケットから抜け出すと、携帯電話を持ちながらベッドと対角線上の位置にある一人暮し用の小さな冷蔵庫に向かって歩き出した。
冷蔵庫を開けると、中からミネラルウォーターを取り出した。再びベッドに戻ると、勢いよくそれを飲んだ。
よく冷えた水が、熱く空っぽの腹の中に滝のように落ちていく。前日の引越し屋のバイトの疲れで、仕事が終わると、すぐに床についてしまう。
ましてや、男の一人暮らしだ。食生活はコンビニ弁当中心で、冷蔵庫はガラガラな状態がほとんどだ。溜まっていくのは、ゴミばかり。お金もお腹もいつも寂しい。

 「また、ヴォルヴィック?それとも、六甲?」
 「水に違いなんか分からないよ。飲めれば、どれも同じだよ。」
 「ミネラルウォーター買うより、食材買えば良いのに。いつも学食なんでしょ??」

 電話から、水を飲む音が結花に聞こえたのだろう。あきれたような声で問いかける彼女の声が、妙に心に響く。母親に言われるような言葉に、いつもならムッとしてしまうのに、今日はその言葉がありがたく感じられた。階段を下っているのか、コツコツとパンプスの音が響く。

 「俺が作る料理より、学食の方が美味しいんだよ・・・。今日は、ゼミだけだから2時頃まで暇だなぁ。今から学食行っても、誰もいないし・・・。」
 「ゼミなら休講だよ。1限の前に掲示板見たら、休講って書いてあったよ。」
 「っえ、じゃあ俺、今日学校休みじゃん!」

悟は寝返りを打つと、小さくガッツポーズをした。一日暇な日は、早く目を覚ましても午後まで二度寝をし、ラフなスタイルでコンビニで立ち読み。そのまま、買い物をして家でまったり、と言うのが日課になっていた。

 「等身大の明日」(ドラマ)の中のヒロインも、悟と似たようなキャラクターで描かれていた。
土曜日の夜には、友達と朝まで飲み明かし、日曜日は夕方まで熟睡。スッピンで一日ダラダラと行動する。
 放送回数も半分を越え、ドラマも後半戦に入ってきた。ヒロインと彼氏に少し気まずい空気が漂い始めた。日曜日のデートを断り続ける彼女に彼氏が不信感を抱くようになる。
彼女は、朝起きられず、スッピンで彼氏に会うのが恥ずかしいだけなのだが、彼氏は彼女が学校の男友達と浮気しているのではないかと疑う。素直に聞くことが出来ず、彼女に会うたびに辛く当たってしまう。毎朝のように続いていたモーニングコールも一日おきになっていった。
 先週の放送で、二人は大喧嘩をしてしまう。原因は、彼女が学校の男友達と楽しそうにカフェで話しているところを彼氏が目撃してしまう。(男友達の彼女の誕生日プレゼントの相談に乗っていただけなのだが・・・)その場では気付かないふりをして通り過ぎていった彼氏だったが、なまじ真面目なだけに物事を悪い方向に考えてしまう。彼氏は、その日の夜に彼女に電話をする。

 「・・・、他に好きな人がいるんだろ。もう、僕からのモーニングコールはいらないよね。」
 「ぇ、なにそれ??全然話が見えないんだけど・・・。」


 悟は、そこでテレビ画面を消していた。ありがちな男女間の誤解、安っぽい連続ドラマにうんざりしていた。始まりから20分程の所で見るのを止めたから、あと30分間の間に何かしらの話の進展は見られたのかもしれない。


 「そういえば、平井さんはこの前、“トウシンダイ”全部見た??俺、途中で見るの止めちゃったんだ。」
 「うん、見たよ。なんかスッゴク良かった。二人の距離が、グーっと近付いたんだよね〜。」

 トンッと、荷物を置く音が聞こえた。結花の授業のあった校舎の1階には、小さな喫茶店が入っている。そこに入って腰を下ろしたのかもしれない。

 「ぇっ、喧嘩状態だったのに??」
 「そう。なんていうかさぁ、彼女の男友達がいたじゃん、それが彼氏と街で会うわけ。」
都合のいい話だ、と悟は心の中で思った。
 「それで、どうなるの?」
今度は横向きになり、話の続きを聞いた。
 「で、彼氏に、彼女を頼むなんて言われちゃうんだけど、それは誤解だって事を説明するんだ。」


 自分が誤解していたことを知った彼氏は、翌朝、少し早めにモーニングコールをする。
そして、彼女に素直に謝る。
 「あの・・・、ごめん。僕の勘違いだった。」
ただその一言しかいえなかったが、彼女は携帯電話を切り、スウェット姿のまま家を飛び出した。
彼氏の家まで走り、彼氏が扉を開けた瞬間に、一言言った。
 「今日は日曜日だから、デートしよう。」
そこで先週の放送が終了した。


 一通りの話を聞き終わると、悟はベッドから起き上がりカーテンを開け、窓の外を眺めた。
すると、さっきまで学校にいたはずの結花が携帯電話を持ちながら、悟に手を振っていた。
話の概要を聞くのに夢中になっていて、彼女が再び歩き出したことに気付かなかった。
悟は、バツが悪そうに右手で頭を掻いた。

 「デートしちゃおっか、ドラマみたいにっ!」
結花の笑みを含んだ声が、悟の耳いっぱいに響いた。
 「でも、平井さん、3限は?」
 「今まで皆勤賞なんだから、一回くらいサボったって平気だしっ♪お弁当いっぱい作っちゃったから一緒に食べよ。“ハムレット”も観たいかも。」
悟は一口水を飲むと、寝癖のついた髪を指先でいじりながら言った。
 「ちょっと待ってて、すぐ支度するから。」


著作者:理名子      ホームへ
作品の著作権は著作者にあります。無断転載は厳禁です。



  
ホーム>オンライン小説,ネット小説,ウェブ小説,総合の投稿小説空間へ