I & FLOWER CAT
ファンタジー小説 未来 コメディ ほのぼの  文字数約2400字
著作者:燈麻美香   著作者の作品一覧へ   ホームへ


[あらすじ]
突然俺の家に押しかけて来た奴は、猫であり花だった。
どこにでもいる一般人の俺と元高級品のあいつとはこんな風に始まった。
I & FLOWER CAT
西暦2087年、科学技術が進化しても人間の本質は変わってはいなかった。
相変わらず金に貪欲で貧富の差が激しい。
福祉なんてものも一応発展しているようだが、俺には縁がない。
そして俺はいつもとなんら変わりない日常を過ごしていた。



・・・はずだった・・・



「おい、お前。僕を連れていけ」



唐突に俺に話しかけてきたのは猫であり花だった。
化学技術の結晶とも言える花猫である。
花猫は首にライオンのような鬣状の花びらを持つ。
耳も小さな花で、尻尾の先にも花が咲いている。
もちろん良い香りもする。
噂ではこれが気分によって変化するらしい。
だが人語を理解する奴は極まれだった。
「ったく、湿気た家だな〜」
そいつはチッと舌打ちして我が家で唯一のソファに陣取る。


文句を言うなら速攻出てけ!


青のソファーにピンクの猫、色合いが合っていない。
せめて胴体の色がその首や耳の白い花ならな〜、と思っていたらそいつが渋い顔をした。
「ん?その不満そうな顔はなんだ?僕がせっかく来てやったというのに・・・」


呼んだ覚えは無い!!


しかしこの花猫はどうやら高級らしい。
口調は非常に悪いが、一人称が『僕』なのがその証。
そいつが毛づくろいをすると、時折フローラルな香りが部屋を飾った。


うん、生きてる香炉みたいだな


「おい、何をボケッとしてる。ミルクくらい出せよ」
「勝手に付いてきて図々しい奴だな」
香りを楽しむ間もなく、俺はブツブツ言いつつも腰を上げた。


俺はお前の小間使いじゃないっての!


自分用のミルクもついでに温めて皿とコップに取り分けた。
ちなみに花猫は品種改良が進んでほとんど人間と同じ物を食べることができる。
それが良いのか悪いのかは俺には分からないが。
「んで、お前はなんで俺の所に来たんだ?」
考えても理由が見当たらない。
そいつは軽々しく笑った。
「金持ちの野郎共より面白そうだったから。貧相で根暗、さらには貧乏な奴なんて真逆で面白くねえか?」


面白くもなんともないよ!

俺の顔の事はほっとけ!!


「・・・逃げ出して来たのか?」
「おうよ、ババアの顔に十字傷作ってやった」


女なのに十字傷・・・

想像しただけで可愛そうなおばさんだ・・・


「今まででも巨体で十分脅威だったのに、ますます威圧感が増しちまった。ありゃ問題だったな」


まず引っ掻くことから問題だろ!


俺は心の中でツッコミを入れながら会話を進める。
「警察沙汰とか嫌だぜ」


泥棒扱いされるのなんて真っ平だ!!!


「安心しな、適当に逃げるから。僕は」
「『僕は』ってことは俺は見殺しかい!」
聞いていないのか、そいつはキョロキョロ視線を漂わせる。
「ミルクだけじゃ足らねえ」


放っておけば荒らされる可能性大だな・・・


「分かった。何か作ってやるよ」
先手を打っておこうと、溜め息と共に再び立ち上がる。
一応猫だからな、とか考えながら冷蔵庫を開けた。
3日前の秋刀魚が出てきたが、まだこれくらいならいけるだろう。
「・・・安っぽい」
「なら食べるな」
「嘘、美味いな。料理好きなのか?」
「まあな、一応女だし」
「へ?」
固まったそいつの表情が非常に腹立たしかった。


確かに俺は貧相で、化粧もしてなければ胸もない!

ついでと言ってはいけないが、金もない!!

それは自他共に認めるよ!!!


「す、すまねえな。男だと思ってた」


いや、お前の顔見れば嫌でも分かるから!!!


そいつは気まずさを隠すように魚に被りつく。


ああ、そこは焦げだらけなのに

食べ過ぎると癌になるんだぞ・・・!


そいつの食事を眺めながら尋ねてみる。
「名前・・・あるのか?」
「ない」


元飼い主のくれた名は捨てたのか・・・


「ならどう呼べばいい?そのまま『花猫』か?」
「その呼び名はやめてくれ。発音を間違えると、『鼻猫』になって気色悪い」
「じゃあ呼べないだろうが」
少し間が空いた。
「・・・『フラワーキャット』・・・」
「・・・長いな。『花猫』の英語バージョンなだけだし」
「『マック・エリン・ノストラダムス』よりはマシだろ」
「あ、そういう名前だったのか」


それは確かに捨てたくなるよな・・・

ノストラダムスってのも、なかなか不吉だ

予言が外れたとは言っても、俺もつけられるのは嫌!


「まあいいさ、俺の名前は・・・」
「おっと、言わなくていい」
「なんでだ?」
「『お前』で十分だからだ」


怒っていいよな?

怒るべきだよな??


「これから仲良くやってこうぜ」
その子猫さが残る顔で怒る気が削がれた。


猫が勝手気ままな生き物とは知っていたが、口を利くとこれほどタチが悪いとは知らなかったぜ・・・


「僕は好き勝手にするから」
宣言したそいつは俺の家を探索し始めた。
俺も諦めて勝手にしろ、とソファーに寝そべってうとうとしかける。
だがふいに不安が過ぎった。


あ゛、割れそうな物を退かすの忘れてた・・・!


不安的中、ガッシャーンと景気のいい音が聞こえた。
「こらぁ!!!」
「ははは、ミスっちまった」


笑い事じゃない!

しかも我が家で一番高価な置物なのに!!

千円で貰い物だけど!!!


「お詫びに1つ歌ってやるよ」
「歌なんか・・・」
俺を無視してコホンと軽く咳払いすると、声の調子を一転させて歌い出す。
同時に花の軟らかい香りが部屋を心なしか明るくさせた。


♪〜♪〜♪
声は音と匂いとも判別できない
飛び上がれば花吹雪で魅了する
僕の名前はフラワーキャット
獣の温もりを持った花
貴方に幸せのお裾分け
♪〜♪〜♪


聞いている俺はその歌に酔う。
これは好きな音楽を聴いてる時に似ている気がした。


こいつもこうしていれば可愛く見えるな


歌い終わるとそいつは笑う。
「歌ったらまた腹減った。飯くれ」
「・・・・・・可愛くない」
片手を差し出し、子供が飴をねだるような視線で待つ。
母親代わりではないが、俺が動かなければいけないだろう。
「はあ・・・幸せと厄が同時に来たみたいだな・・・」
消臭剤の心配をしなくて良い代わりに、食費の増大は財布に痛い。


どうやら俺の苦労は始まったばかりらしい・・・


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