色無し世界
クリスマス 短編  文字数約3000字
著作者:李月   著作者の作品一覧へ   ホームへ


[あらすじ]
イブの夜。その日はサンタが1年の中で唯一仕事をする日。
まだ若いサンタクロースが、プレゼントを配ってまわる。
けれども、1つだけプレゼントがあまってしまった。
クリスマス短編です。
色無し世界
 風が頬を撫でる。十二月の風は冷たい。赤い手袋を擦り合わせて、赤い帽子をかぶった娘はため息をついた。その白い息も、娘の後ろへと消える。肩より下の黒髪を風に遊ばれ、帽子をかぶりなおした。ついでに耳も覆う。白いマフラーをしっかり首に巻くと、自分の前でそりを引くトナカイに声をかけた。
「もう少しだな、相棒」
「毎年の事ながら、疲れるよ」
 空を赤いそりは走る。しゃんしゃんと、軽い鈴の音を鳴らして。
 さて、と呟いて娘は温かそうな赤いコートをしっかりと閉じる。後においてある白い袋の中に手を突っ込むと、その中のひとつを夜空に投げ捨てた。
「1つ、完了」
 ニヤリと笑って、もう1つ手に取る。そのまま捨てるように投げて行き、やがて袋の中身は箱が1つ残った。
 青い箱を取り出して、娘は首をかしげる。どう見てもその箱の中身は、空だった。
「相棒、どう思う?」
 最後のプレゼントを手に持って、若いサンタクロースは首をかしげる。そりを止めると、トナカイは疲れたように振り返った。
「どう思って、僕に聞かないでよ」
 赤い鼻をさらに赤くさせて、トナカイは軽く首を振る。大きな角がぶらぶらと揺れた。
「空なんて事は、ないはずなんだが」
 首をかしげて箱を眺める。確かにその軽さは、何も入っていないに等しかった。それに、宛名も何も書かれていない。ちらっと相棒の方を見ると、彼はのんびりとあくびをしていた。
「あくびをしてる場合じゃ無し」
「いたっ」
 軽く蹴られてトナカイはびくっと反応する。サンタはふんと笑うと、青い箱を手の中でもてあそんだ。
 配達が終了しないと帰れない。それが、サンタの仕事内容。自分の地区は終わった、と若いサンタは夜空を見る。毎年この時期になると、家に白い大きな袋が届けられる。それと一緒に、鼻を赤く塗られたトナカイも。それが、彼女の1年に1回の仕事だった。
 コートと同じく赤いズボンから、白い手帳を取り出す。分厚い手帳を開くと、びっしりと黒い字で事細かに書かれていた。その中で、探している項を見つけると、サンタは分厚い手袋で器用にページを開いた。
「どう?」
「ん? ああ、やっぱり空って事はないはず」
 脇から顔出したトナカイに、手帳を見せる。顔をゆがめたトナカイに笑って見せて、サンタはその内容を読み上げた。
「ほら、ここだ。『贈り物は必ず届けること。中身ももちろん忘れずに。横取りして箱だけ渡せば、サンタ法第百十二法により罰せられる』」
「サンタ法?」
 音を立てて手帳を閉じて、サンタはズボンに白い手帳をしまう。トナカイの疑問に、サンタはうなずいた。
「そう。サンタクロースにだけ使われる法律だよ。まったくもう、めんどくさいなあ」
 顔をゆがめて、サンタは青い箱を睨む。それでも重さが変わるはずはない。ため息をついて、その箱を自分の隣に置いた。
「相棒、もう1回だ。最初から見に行くよ。リストに載ってる子に渡し忘れたかも」
「ちゃんとチェックしないからだよ」
「うるさい」
 鈴の付けられた首輪に紐をつけながら、トナカイの事を軽く蹴る。トナカイは低くうめいた。それに気にせずに、サンタは手綱を持つと、軽く揺らした。
「よし、最初っからもう1回だ!」
「あーあ、今日は娘とパーティーだったのに」
 ぶつぶつ言いながらも、トナカイは走り出す。赤いそりは眼下のクルマの渋滞なども気にせずに、音もなく走り始めた。


「おかしい」
 空は明けはじめている。トナカイもさすがに眠いらしく、のんびりとあくびをしている。サンタは冷や汗をかきながら、リストを睨む。穴が開きそうなくらい見つめて、ようやく視線を離した。
「この箱だけ、余る」
「もらっちゃえば?」
「私はまだ死にたくないんだよ」
 さらりと言ったトナカイを軽く蹴って、サンタはそりに深く座る。ため息をつくと、そのまま額に手を当てた。
 サンタは、夜が明ける前に全ての子供にプレゼントを配らなければならない。もし配れなければ、給料は無しだ。しかし、トナカイはきちんともらえるのだが。
 その理不尽さにいらいらしながら、サンタは手をどけた。側の手綱をとると、ゆるく振る。
「行くよ、相棒。もう1回だ」
「はいはい」
 鈴の音が鳴り始める。明るくなり始めた空を、赤いそりはすべるように走る。サンタはいらいらと青い箱を睨んだ。それで、解決するわけではない。
「なんでだ」
 小さく呟いて、箱を睨む。そのとたん、ふわっと青い箱が舞い上がった。驚いてサンタが手綱を引っ張ると、苦しそうなトナカイの声がした。あわてて手綱を離しているうちに、青い箱は消えた。
「ちょ、いきなりなんなんだよ」
 振り返って睨んできたトナカイを気にせずに、サンタは消えた箱があった場所を見る。ばっとリストを見ると、なかったはずの名前が付け足されていた。
「なんなんだ」
 ぐしゃっと手の中の紙を握り締め、サンタは手綱をとる。少し強く振ると、トナカイは走り始めた。
「で、今度はどこに?」
 呆れたように聞こえてきた声に、サンタは朝日を睨みながら答えた。
「病院だ」


 サンタの姿は、赤い服を着ている限り一般人に見えることはない。その特権を利用して、サンタは病院の三階の窓にそりを止めた。ぶつぶつ言うトナカイを黙らせて、そっと中をのぞく。そこには、幸せそうに赤ん坊を抱く母親と父親の姿があった。
「もしかして、あの子?」
 驚いたようにトナカイはサンタを見る。サンタはうなずくと、泣き叫んでいる赤ん坊に優しい笑みを向けた。
「なるほど。あの子に、両親という贈り物を。というわけか」
 やれやれと肩をすくめて、そりに座りなおす。不思議そうに見てくるトナカイに、若いサンタはニヤリと笑った。
「つまり、あの子はぎりぎりサンタクロースから贈り物をもらえた子って訳だ」
「ついでに、君もだろう。ぎりぎり、配達完了。給料がもらえるってね」
 軽く笑ったトナカイを軽く蹴って、サンタは完全にあがった太陽を見る。そして、1つ大きなあくびをすると、赤い帽子を目元まで下げた。
「じゃ、一眠りする間に戻ってくれ。報告書を提出しなくちゃな」
「わかってるだろうけど、日が出たら残業代、僕に払うんだからね」
 恨みがましそうに見られて、サンタは意外そうに帽子をあげる。めんどくさそうにズボンを探ると、小さなチョコレートの欠片を取り出した。それを、不思議そうなトナカイに投げる。あわてて受け取ったトナカイに、サンタはニヤリと笑った。
「残業代だ」
「ずいぶんと安いよね」
「気にするな。これでチャラだからな」
 また目元まで帽子を下げて、サンタはそっと目を閉じる。トナカイは仕方がなく夜が明けた街を走り始めた。鈴の音が、軽くなる。
「ねえ、そういえばサンタはプレゼント、もらえないの?」
 いきなりたずねられて、サンタは目を大きく見開く。軽い鈴の音を聞きながら、彼女は顔を横に振った。
「いや、もらってるよ」
 帽子をあげないまま、彼女はふわっとあくびをする。トナカイは首をかしげた。
「いつの間にもらったわけ?」
「子供たちと、一緒に。最高のクリスマスプレゼントをね」
 まだ首を傾げてるトナカイに笑って、サンタはそっと帽子を上げて眼下の街を見る。まだ寝静まっている町に、彼女は薄い笑みを浮かべて呟いた。
「メリークリスマス。聖なる夜に、君に幸あれ」
 赤いそりから、やわらかい言葉が町に振りそそいだ。
「そして、僕にも幸あれ。仕方がない。残業代は教会からもらおうっと」
 自分の考えに機嫌をよくして、トナカイは足音も軽くスピードを上げる。サンタは目を閉じると、ゆっくりと夢の世界へと旅立っていった。


著作者:李月   著作者の作品一覧へ   ホームへ
作品の著作権は著作者にあります。無断転載は厳禁です。



  
ホーム>オンライン小説,ネット小説,ウェブ小説,総合の投稿小説空間へ