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[あらすじ]
恋人に無理やり連れられてきたのは占いの館。未来を予言する謎めいた言葉を占い師に言われてから人生が変わってしまった男の物語。 |
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活字中毒の男 3
本は飛ぶように売れ、早くも今月の新刊トップ10内に入った。
普通なら嬉しいはずなのだろうが、会社での視線、担当からコンスタントにかかってくる電話、そして道行く見知らぬ人の視線までも何か俺に言っているようで狂いそうで苦しかった。
夏の暑さもあるのかもしれないが不眠が続き、体調は最悪だ。
(こんなに打たれ弱い男だったのか?)
自答自問する。
(あぁ、そうかもしれない)
これの繰り返しで本当にしんどい。
こんな俺の心中を察しって何も言わずに妻は遠くから見守っていてくれている。安らぐ場があって本当に良かった、と初めて心からそう思った。
そんな日々が続いて、今年一番の熱帯夜に2度目のあの現象が起こった。
眠れずにリビングでビール片手に深夜番組を一人で見ていた時だった。息も出来ないくらいに激しい痛みが頭を駆け巡ったのだ。
声も出ない。苦しんでいるのに、「助けてくれ!」とも叫べないのか。きっと死ぬ時はこんな感じなんだろうか。
走馬灯のように想いが駆け巡る。そうこうしているうちに強烈な光を浴びて視界が真っ白になった。
目が覚めて時計を見ると2時間経過していた。また気絶してしまったようだった。1時だ。
TVはいつの間にか切れており画面は真っ黒く鈍く光っていた。
(あぁ、また何か予感がする)
じっとりとした嫌な汗が額に伝わった。
(降って来る!)
そう思って、急いでノートパソコンを用意した。予感は的中した。文字がパソコンの画面から飛び出てくる。
(また、これが小説になるのか。 拾わなくては)
必死でキーボートを叩いた。叩いても叩いても次から次に文字は飛び出してくる。
(なんで俺はこんなことしているのだろう?)
自分に問いかけてみる。
(そりゃ小説になるからだ)
拾わなければ。
拾えば小説になる。
1冊目は飛ぶように売れ続けている。
金になる。
そうだ、そうだ、そうだ。
拾え!拾え!拾え!
作業は、やはり朝まで続いた。6時間休みなしでキーボードを叩き続けた。その速さは、人間とは思えないほど打つのが速かった。そして最後の句点が飛び出すと、もう次は何も飛び出てこなくなった。
あぁ……終わった。
リビングの掛け時計をチラッと見る。もう7時だ。
こんな状態では出勤など無理だ。眠りたい。深い深い海の底で静かに眠りたい。
起きてきた妻が見るなり、ぎょっとして立ちすくんだ。
「あなた、大丈夫?」
言葉が先か、ものすごい勢いで駆け寄ってきた。
「ね、眠い」
一言いうと鼾をかいて寝始めたらしい。
目覚めてリビングへ行くと妻がノートパソコンをじっと見つめていた。
「会社へは連絡してお休み頂いておいたわ。あなた、また前みたいに書いたのね」
「面白いか?」
まだ眠い目をこすりながら聞いた。
「ええ。読んでいると、すごく切なくて哀しくて、でも心が温かくなるわ」
妻は読むのが速い。一通り読み終わると思いつめたような顔を向けた。
「あなた。私、3年前の事思い出したの」
「3年前?」
何のことやらピンと来ない。
「3年前。まだ結婚して無かったよな、俺達」
「そう。私が行きたいって、占いの館に行ったの覚えてない?」
少し考えたが思い出せない。
「あったっけ?」
「ほんとに思い出せないの?あの時ね、あの占い師こう言ったのよ。”3年後あなたに転機が来ます。少したりともこぼさずに受け止めるようにしてください。それは、天から降ってきます。”って」
その言葉を聞いて、あの占い師のドギツイ目を思い出した。
紫、ゴールド……あぁ、何だかクラッとしてきた。
はっきりと思い出した。あれから丁度、3年経ったのだ。天から降ってくるもの、それは文字だったのか。そういう事なのか。この事だったのか。謎が解けたような気持ちになった。
「これって転機なのかしら……」
不安げな顔をして妻が言うと電話が鳴った。出版社の担当からだった。何と言うタイミングの良さ。盗聴でもされているのかと疑ってしまうくらいだ。
新作を書き上げた事を伝えると、「すぐ伺います!」と離れた場所でも聞こえるくらいの大声で担当からの電話は切れた。
6ヶ月に1回の割合で、この現象は『きている』。じゃ、次はまた6ヶ月後なのか?
そう思うと、何だか自分に起きているこの出来事が面白くなってきた。
6ヵ月後、と言う予想は外れていた。
1週間後、職場であの強烈な頭痛が起きて早退した。病院で処方された鎮痛剤を飲んで何とか家に辿り着くとリビングのソファーに妻に支えられながらも倒れ込んだ。
(また来るのか?)
そう思いながら記憶が飛んだ。
3時間後、目が覚めた。テーブルにはノートパソコンが置いてあった。きっと気を利かせて準備しておいてくれたのだろう。
――さあ、また稼ぐぞ。
俺は、また取り憑かれたようにキーボードを叩き始めた。6時間続いて12時間眠る。
たびたびこのような事が起きるようになって会社を辞めざる得なくなった。会社側も、俺の本が次々と店頭に並んで、何故かどれもベストセラーになっているので、あっさりと退職願は認められた。大して必要とされていなかった、だけなのかもしれない。あんなに釈迦力になって頑張っていたのに。そう思うと背筋が寒かった。
最近は頭痛は起こらず、深夜2時から3時の間に予感がする。その予感は何とも表現できない感覚で、第六感で感じる、と言う感じだ。作家とはこんな生活をしているのだろうか。俺は深夜に一人カタカタとキーボードを鳴らしていた。
この数ヶ月の間に5冊もの本が出版され、どれも話題となり売れ続けている。
実は、一度も自分の書いたとされている本を読んだ事が無い。おかしな話だ、と思うだろうが本当の話だ。読もうと思っているのだが、忙しくてね。
ただ、飛んでくる文字を拾えば小説になって金になる。
この時は、まだ愉快で愉快で仕方なかった。
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著作者:桃色満月
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